徹夜になると言っていたが、秘書みなぼんは『ゴー宣Special』
のゲラチェック終わっただろうか?
昨日はわしのお供で外出するのもゲラチェックが間に合わない
と嫌がっていたが、あんな仕事より、わしの打ち合わせに
付き合っていた方が楽しいだろうと言ってみた。
ところがみなぼんはゲラチェックが一番好きな仕事だそうだ。
わしは一回通してざざっと読むだけでもめんどくさいと思うが、
みなぼんは文字のデザインを考えたり、フキダシに入る文字
の級数を考えたりしているし、誤字を修正したり、出版社の
校閲のチェックが入った文章を修正したりしている。
ときには絵も含めての辻褄の合わないミスを発見し、絵ごと
描き直さねばならない箇所も発見して報告する。
わしは一度描き終わった作品はすぐ忘れてしまい、次の作品に
完全埋没するので、過去のことを振り返る余裕がない。
みなぼんは過去にこだわり、時にはわしの判断を待たずに、
勝手にネームや文章の修正までやってくれるので非常に助かる。
なんでゲラチェックが一番好きなんだとみなぼんに問うと、
自分は絵も描けないし、ゲラチェックしていると、完璧な
作品に仕上げるために少しは役に立っているという実感を得る
ことが出来るから楽しいのだそうだ。
本を作るというのは、こういう地味に真面目な情熱に支え
られている。
スタッフ全員がこんな調子で、地味に真面目な共同作業を
積み重ねて作品を作っているのだ。
これはAI・人工知能社会になっても、滅びない仕事のはず
なのだが、出版業界全体の不況の中にあって、生き残るのは
大変な時代に突入している。
「人は宝だ」という常識と思われていた言葉でも、人を雇い
続けるのが超困難な時代には、常識というより理想となって
しまい、「リストラ」の方が経営者としては評価される社会
になってきた。
資本主義というのは実に苛酷な体制だが、知恵と忍耐と
真面目な情熱で生き残るしかないのだろう。